起業する際の資金調達方法としてメインになるのは、「出資」もしくは「融資」でしょう。それぞれのメリットとデメリットを紐解くことで、どちらが自分に向いているのかの判断基準にしてみてください。なお出資や融資は「する側」と「される側」がありますが、このコラムでは「される側」、つまり出資や融資を受ける側について解説しています。
1.メリットデメリットを知ることで出資による影響を考える
出資とは、「資金を出すこと。特に、事業を営むための資金として、金銭その他の財産または労務・信用を会社または組合にだすこと」(デジタル大辞泉:出典 小学館)。起業家に出資する場合は、「その事業の成功や成長を期待して資金を提供する」という意味において「投資」と似たような意味を持ちます。では、創業者が出資を受けると、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
メリット | デメリット |
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・資金を返済する義務がない ・経営者のリスクが低い ・会社や事業の成長性を見込んでくれる ・利息の支払いがない |
・経営に口を出される(経営権を渡す必要があることも) ・出資者を探すことが難しい ・調達資金の増額が困難 ・利益が出た場合に配当を支払う必要がある |
一番のメリットは、やはり「返済しなくて良い」ということでしょう。創業当初は売り上げが順調に推移することは少なく、利益が潤沢に出るわけではありません。その少ない利益がさらに減ることが無いのは経営が安定することにつながり、経営者としては助かりますね。また「出資してくれる人」は「会社の将来性に期待」してくれている人なので、例えば今までの事業が赤字続きでも、これから新しく始める事業が魅力的だと思えば出資してくれるでしょう。出資金に対して経営者が保証人となる必要がないことも、低リスクと言えます。
その代償として、「経営に口を出される」という大きなデメリットが。出資を受けるということはつまり出資者が株主となることで、「経営権を与える」ということです。さらに出資の比率が50%を超えれば実際の経営者は出資者ということになってしまいますね。創業者、経営者として自分の裁量で事業を運営したい場合には、出資を受けることでそれが叶わなくなる可能性があるので注意が必要です。またそもそも出資者を探すこと自体がとても困難であることもデメリットのひとつ。出資者として有名なものがベンチャーキャピタルですが、こちらから出資をお願いしても足元を見られて相手にされないことが多いでしょう。よほど新しい技術やサービスとしてマスコミにでも取り上げられない限り、なかなか出資してもらうことは難しいようです。
返済不要という大きなメリットの反面、デメリットも大きい資金調達方法、それが「出資」なのです。
2.融資を受けると何が起こる?そのメリットとデメリット
融資とは、「資金を融通して貸し出すこと」(大辞林:出典 三省堂)。創業者にとっては資金を借り入れることですね。中小企業に対しての融資制度としては、政府系金融機関である日本政策金融公庫が有名です。それ以外には民間金融機関の銀行融資、信用保証協会の保証付き融資、各自治体が独自に行う融資などがあります。では融資のメリットとデメリットとは、どのようなものなのでしょうか。
メリット | デメリット |
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・経営に口出しされることなく資金が調達できる ・比較的大きな額の資金が調達可能 ・順調に返済すればより大きな額を借りやすくなる ・公的機関であれば比較的低い金利で借りられる |
・借入金は返済する義務がある ・経営者が保証人になるなどリスクがある ・利息の支払いがある ・利息が付く分、借入金よりも多く返済しなければならない |
融資とはつまり「借金」ですから、利子が付いた上で返済しなければならないというデメリットが目立ちますが、実は出資と比較した場合には大きなメリットがあります。それは「経営権を奪われない」ということ。知識と経験を積み、お金を貯め、せっかく起業したのに、経営についてさんざん口を出された結果、自分の思う通りに会社を動かせなくなってしまった…。そんなリスクを伴うのが出資なのです。返済が必要な代わりに経営権を奪われるリスクがない資金調達方法、それが「融資」であると言えます。
その返済ですが、公的機関であれば実は融資の利率が民間金融機関よりも低い融資制度や、創業当初は利息分のみの返済で良しとするものもあります。なかには無担保・無保証で借りられるものもあり、創業者にとってかなり借りやすい制度が整っていると言えるでしょう。これらの融資制度を運営しているのは「日本政策金融公庫」。融資に積極的な政府系金融機関です。税金で運営されているため公庫として利益を大きく稼ぐ必要がなく、創業者に優しい融資制度が数多く用意されています。審査も創業計画書をしっかり作り上げる必要はありますが、比較的借りやすいと言われています。ただし政府系金融機関であるために、税金や公共料金の滞納などがあった場合には非常に借りることが困難になるので注意が必要です。
日本政策金融公庫の用意している創業融資のうち「新規開業資金」や、創業者が女性もしくは35歳未満・55歳以上だった場合に借りられる「女性、若者/シニア起業家支援資金」も自己資金要件がなく、比較的借りやすい創業融資制度と言えるでしょう。また公庫は全国に支店が152あり、最寄りの公庫支店で融資の相談をしやすいということもメリットのひとつと言えます。
3.結局どっちがいいのか?違いを比べてみました
どちらもリスクとリターンのある出資と融資。それぞれの違いを表にしてみました。
出資 | 融資 | |
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不要 | 返済 | 利息込みで必要 |
難しい | 借りやすさ | 比較的借りやすい |
低い | 経営者の金銭的リスク | 高い |
あり | 経営権の移譲リスク | なし |
将来性 | 会社に求められるもの | 安定性 |
配当金 | 資金調達元へ支払う | 利息 |
難しい | 調達資金の増額 | 完済後なら比較的簡単 |
純資産の増加 | 会計処理 | 負債の増加 |
「結局どちらがいいのか」というのは永遠の命題かもしれませんが、経営者の考え方ひとつと言えそうです。起業を考えている段階で出資を検討してくれる相手がいたり、ベンチャーキャピタルで出資を受ける目途が立っていたりするようであれば出資もありえますが、一般的には中小企業の場合は間口の広い融資(中でも特に日本政策金融公庫)を利用することが多いでしょう。いずれにせよ、創業者自身が自分で考え、人脈を作り、創業計画や資金計画を練りあげていくことが重要です。出資者も融資制度の審査担当者も経営者の本気度を見たいと思っていますから、十分に準備する必要があるでしょう。
個人で準備するには限界がある、忙しくてなかなか思うように創業準備が出来ず、資金調達まで頭が回らない…。そんな場合には、税理士事務所や会計事務所などのプロにアドバイスを求めることも考え方の一つに入れましょう。相談だけでしたら無料で受けてくれるところがほとんどですし、創業に強い税理士を選べば、融資の審査書類についても作成を依頼できることがあります。日本政策金融公庫の「中小企業経営力強化資金」のように税理士事務所などの支援機関に助言を求めることが融資の対象条件となっているものもありますから、八方ふさがりになってしまう前に、相談してみることもオススメです。場合によっては助成金や補助金を利用できることもあります。