1.自己資金として認められるのはどこまで?
「創業融資」と聞いて、最初に思いつくのは日本政策金融公庫ではないでしょうか。公庫は税金をその財源として運営される政府系の金融機関であり、融資にとても積極的です。融資制度の種類も多く、融資を希望する時にはその制度メニューのどれかには当てはまるという場合も多いでしょう。ただ、いかに積極的であっても融資である以上、「回収できる」見込みがない経営者や企業に資金を貸し出すことはありません。「回収不能」に陥らないために、日本政策金融公庫の融資制度には細かく制度要件が定められています。それは年齢だったり、創業者限定であったり、業種だったり。このほかにも数多くある制度要件の中で、重要な位置を占める要件に「自己資金」があります。「自己資金」とは、事業のために自ら用意した資金のことで、ほかからの借入金などは含まれません。
そもそも、「どこまで」のお金が自己資金と言えるのでしょうか。ここではよくあるケースについて考えてみましょう。
1.親や友人からもらったお金
まとめてもらったお金は「自己資金」ではなく「借金」と判断されます。親や友人からの「借入金」ではなく、返済不要の資金として受け取った場合には、「出資」や「贈与」として出資契約書や贈与契約書など一筆もらっておくことで、自己資金と見てもらえることがあります。なお、配偶者や子供名義の通帳残高は自己資金と判断してもらえることが多いようです。また「もらった」ということではなく、親や友人と「共同で創業する」ということであれば、親や友人の資産も自己資金とみなされます。
2.タンス預金
通帳に記載されていないタンス預金(金融機関に預けているわけではなく、家庭内で現金にて保有しているもの)は、それが本当に自分でコツコツ貯めたお金であることが証明できないため、自己資金とはみなされません。
3.創業のために購入した備品・設備代
実際に創業のために購入したものであり、その領収書があれば、その金額は既に購入したものであっても自己資金として計算することが出来ます。「みなし自己資金」と呼ばれることもあります。
4.退職金
預金に入金後もしくは退職所得の源泉徴収票のあるものは自己資金とみなされます。
原則として「返済不要のお金」であると第三者に証明できる資金が「自己資金」と言うことが出来ます。当然ですが、消費者金融から借り入れたお金は「借金=負債」であり、自己資金にはなりえません。
2.創業融資の自己資金要件。大切なのは〇〇だった?
「自己資金」と呼ばれる資金の範疇がわかったところで、今度は創業融資制度を利用する際の自己資金について考えてみましょう。
日本政策金融公庫の創業融資を利用するためには必ず審査があります。審査には資金の調達方法や事業の見通しを書いた創業計画書を提出しますが、あわせて銀行の通帳も提出する必要があります。最低でも6ヵ月間、場合によっては1年間のお金の動きを確認するためです。またこの通帳によって「創業のためにコツコツ貯金してきた」ことがわかることで、創業への本気度も判断されます。
創業融資の審査では、自己資金としての通帳の残高もさることながら、その資金の経緯や出所を厳しくチェックされます。コツコツ貯めている形跡がないのに、ある時突然に大きなお金が通帳に記載されていれば、その資金の出所を問われます。例えば前項にある「親や友人からの出資・贈与」の場合、その資金の動きを確認するために出資者・贈与者の通帳提出を求められることも。ここできちんと説明できないと、「見せ金」(自己資金を増やすために一時的に資金を借り入れて増やしたもの)であると判断されたり、「大きなお金が入ったから起業してみるか」程度の軽い気持ちで考えていると判断されたりして、創業融資を受けられなくなるでしょう。創業してからの収益構造や事業展開などがしっかり計画され、その為の準備を入念に行っている方が事業の成功する可能性は高くなり、当然公庫の回収見込みも高くなるからです。
このように創業融資を受けるための自己資金については、「自己資金の金額の多寡」だけではなく、「創業することにどこまで本気で準備してきたのか」を説明・証明することが最も大切であると言えます。
3.結局借りられるのか?自己資金を増やすには
結局、自己資金がなくても創業融資は借りられるのでしょうか?答えはYesでもあり、Noでもあります。
日本政策金融公庫の創業融資で自己資金要件がある場合、その多くは「創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金として確認できること」とされています。例えば創業のために1,000万円必要な場合には最低100万円を自己資金で用意し、残りの900万円を融資してもらうという形になります。これだけ見ると、「100万円ないと借りられない」となってしまいますが、融資制度によっては「現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方」や「産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方」であれば自己資金要件は満たすものとする、という融資制度もあります(新創業融資制度)。創業者に既に経験があったり、専門家の助言を受けたりすることで「事業が成功する可能性が高い」と判断されるわけですね。
またこれ以外にも、そもそも自己資金要件の設定がない融資制度もあります。
例えば「中小企業経営力強化資金」。この融資制度には自己資金要件がないだけでなく、2,000万円までなら無担保・無保証で融資を受けることが出来ます。「新規開業資金」にも自己資金要件はありません。担保や保証人の有無で利率が変動する融資制度のため、これらが設定できるのであれば有益な制度です。
ただし上記のような自己資金要件の設定がない融資制度においても、自己資金の有無は確認されます。前項で説明した通り、「自己資金の有無=創業への本気度」と判断されることになりますので、「自己資金なし=計画性なし、本気で事業を成功させようとはしていない」と思われてしまうことになります。あくまでも「自己資金がなくても融資制度の申請は出来るが、審査に通るかどうかは別問題である」と考えておいた方が良いでしょう。
では、自己資金を増やすにはどうしたらよいのでしょうか。
これはもうただコツコツと貯金を積み上げていくしかありません。その積み上げを通帳に残すことが重要なわけですから。融資の審査では最低でも直近6ヵ月間の通帳内容が確認されますので、その期間に1円でも多く自己資金を増やしましょう。例えば週末の土日にアルバイトに入って月6万円稼いだとします。これだけでも半年で36万円の自己資金になります。こうした小さな努力の積み重ねが、融資の審査通過への最も近道となります。
そんなに稼げない、アルバイトなんて出来ない、という場合には、一度専門機関に相談してみることも検討してはいかがでしょうか。自分では自己資金がないと思っていても、プロの目から見たら違う判断が出来ることもありますし、自己資金だけでなく今後の事業計画についても相談できるでしょう。ほとんどの専門機関では初回相談は無料としていますので、税理士事務所や社労士事務所をぜひ訪ねてみてください。
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